第62問 悲しみを食べて

悲しみを食らう生き物だ
ああ お前のつらそうな顔を思い出す

ずっとお前はそこにいたのか

俺はとっくにそのトンネルを抜けたとおもう
ああいう脂汗はもうかかなくなったんだよ
ああいうふうに心は震えなくなったんだよ
お前はまだその中にいたのか

悲しみを食うよ
あれ以来悲しみを食うよ

誰にもぶつけられない痛みを、つらみを俺らはぶつけ合ったんだ
お互いの肉を噛みちぎり、汚い時間をすごしたんだ

あれ以来俺は悲しみを食ってばかりだ
その分愛の皿はすこしずつ貯まるんだ
そうして今を生きてる

お前は手をはねのけたんだろう
俺は手を求めたんだ

それはわからないよ
俺らのことは誰もわかりやしない
でも手の先には、心

生きてれば何でも良かった

酒でもタバコでもクスリでも占いでも宗教でも
生きてればそれでいんだよ

お前のせいで俺は何も誰に返せてないことに気づくんだ
金も思いも、友情も愛も

だけどな、お前のことは綺麗さっぱり忘れてやるよ
幸せなんだなって思ってやるし
自分じゃなくてよかったって

悲しみを食らうんだ
別に旨くもない

でも悲しみなんて食い物だ