第79問 我々と現実

一人間として、昨今の日本社会でおこっていることはなんだろうと考えてみると、それは現実的なものや目に見えるものへの偏った趣向、すなわち現実偏重の様相である。

ひとびとは働く上では、金銭的なものや人々からの評価といったような、自分による主体的な解釈を不要とするような多数決的に、もしくはシステム的に優位性が定まるものを好んでいる。

ひとびとは恋愛をする上では、顔だとか周りの人からの見られ方というような自己の恋愛対象に責任のない方向で恋愛対象を決定し、自分自身で転回できる事が可能な人の良さの気づきを避けている。

ひとびとは文化を享受する上では、安く金のかからなくて、そして自分の負担がかからないものに集まり、金のかかるエンターテインメントとその背後の歴史とその担い手を軽んじるようになった。

もの寂しい世の中に移ろいゆくようだ。

時代は変わるが、果たして我々を我々らしくさせてくれるような、現実は現れるのであろうか。これほどに飽きっぽくなってしまった、消費グセのついた人間は、手触りのある泥のついた手のひらを握りしめる感覚を思い出せるのだろうか。