第88問 昔の香り

七月に祖父の一周忌を終えた。

こじんまりとしていた。去年の今頃に、ヘルマン・ヘッセの『知と愛』を必死に読んでいたのを思い出す。同じぐらい湿っぽい夜に、同じような布団に寝ていた。

三十三回忌を経ると、人は輪廻転生が叶うらしい。今から三十ニ年後、人は人の死を忘れることができる。線香の香りとどこか聞き入ってしまう経が、いつもと違う時間をつくりあげた。

それが終わって、親を残して、自分だけ帰る。夜は、久しぶりに旧友に会って、お互いの話をした。

お互い愛に苦しんでいた。

悩み苦しむことが違くても、お互いが苦しんでいることに、思いを馳せた。

いつか紹介してもらったブルガリの香水を嗅いだ。
「優しさ」や「心の広さ」を象徴するような香りらしい。
祖母が昔付けていた香水によく似ていた。
男性用に使われますか?という言葉の意味が、少し深くなる。