第94問 海流

漁をするときというのは、一つの船だけを出す時もあれば、仲間内で複数の船を出したりすることもある。

もしくは沖に出てみたら漁場に船がいて、お互い見つめ合いながら漁をするなんてこともあるかもしれない。

君は漁場で出会った船だった。

同じ港から出てきたわけではないのに、どこか似ていて、毎度その漁場で顔を合わせるたびにどこか似ていることに気づいた。いつの間にや朝や夕も共に漁をするようになった。

もしものためにと、鎖でお互いの船を繋いだ。もしもというのは、すでにお互い船に乗って経験して知っていた、もしものことである。そのもしもは海に船を沈めてしまったり、転覆させたり、ボロボロにしてしまったりする。

海はいつも優しいわけではなく、大漁の日は笑顔で港に帰れても、しけの日は船さえ出せない。海が荒れる日は、共に船を繋いで持ち堪えることで、晴れ間まで待つこともできた。そういう日々がむしろ多かった。なるほど、そういう時は元気のある方の船が晴れ間まで片方を連れて行き、お互い船が壊れてしまうのを防ぐわけである。

青ざめるほど暗い空の日に、海は荒れた。黒々とした波が船を襲うわけである。君はすっかりボロボロになった。引き連れて晴れ間に向かって舵を取ろうと、鎖を引いた。

鎖は、音を立てて切れた。

途端に君の船はボロボロで朽ちていることに気づいた。海流に流されて行くのをただ見つめるだけだ。

君の船はこんなにも脆く情けないものだったのかと、失望の念が止まらなかった。