第66問 寒空が近づいて

どれだけ耳の中を好きな音楽でかき回そうが、どうしても蓋の隙間から入り込んでくるようである。

別に意識的に考えないようにしていても、寒さは無意識に刺さるようにやってくる。

冷たくなった指をこすると、長くなった爪が瞳に反射する。

ペットボトルの蓋をきつく締める。

溢れかえってしまうなにかがボトルのなかにあるのを感じる。あたたかいコーヒーを闇雲に飲んで、寒空を行き先も決めずに歩く。

どうしようもない終わりを迎えるのはもう嫌で、どうにか温かいものをカップに注ぎたい。

目尻には涙ではなく、笑みの後を残し。

つま先には伸びた爪でじゃなくて、歩き疲れた豆をのこして。

寒空には温かい気持ちで敵わなくちゃいけない。

日に日になんとなくじゃなくなっていくのを感じながら、手のひらが固くなっていくのを感じながら。

胸が脈打つ。

全てはあるがままで。