今日は、ぐるぐると皇居の周りを歩き回るような一日だった。
都会の美しい夕日が差し込んで、大手町のみなもがオレンジ色に輝いていた。
隣りにいる人にふと「母の日に、何がほしいだろうかな」と聞いたら、「手紙なんかいいんじゃないの」と言われた。なるほど、自分だけならもっぱら書くことはないけれど、こうして誰かに言われて書くならいいか、と言い訳ができた。
母に短い文章をしたためることにした。夕暮れに手紙とボールペンを買って、口で言うのもきがひけるようなことをそそくさと書いて 、封をした。
スティービーワンダーの"Signed, Sealed, Delivered"を口ずさんで、いつもの帰り道を帰った。
いつになく手紙にしようと思った理由は実はこれだけじゃなかった。
今日の朝、ダイニングのテーブルに一つ読みかけの手紙がおいてあった。しばらく会っていない遠方の祖父からの手紙である。
昔は達筆だと言われた彼の文字はどこかその齢を匂わせるように、ほそぼそとしていて、私の家族のカタチがいつになっても変わらないことはないのだと分からされるようなものだった。
私が書いた手紙が朝焼けであるなら、祖父の手紙は夕焼けのようなものだ。
不思議なもので、私が選んだ便箋の色は橙だった。
今日はオレンジの日だった。