第139問 谷間の世代/不運の中の幸運

谷間の世代

昨日、会食した事務所の先生が、ローの僕らの代をそんなふうに表現していた。

たしかに僕らの学年は不運というか、困難にぶち当たっている。

 

ひとつに、僕らの代から大学院在学中受験ができるようになって、今年の合格者の席を奪い合うのは、僕らの世代と大学院を卒業したてのひとつ上の代なのだ。

簡単に言えば、一年長く勉強している人たちと戦わなくてはいけない。

ただ、ここまできて今更勉強している年数で僕は怖気づくことはない。

クラスメイトのほとんどより勉強してきた期間は短いのだ。

ほとんどが5,6年勉強している中で、こっちは2年と少しだ。

それでも、最初は負けながらも、ちゃんと最後には勝ってきた。

 

僕は、僕自身と戦うだけだし、僕のことを見つめてあげていたい。

 

ふたつに、2つの世代が一緒に試験を受けるし、資格を取るので、事務所の採用枠を例年の倍の競争率で奪い合うことになる。

そして、試験制度の変更を受けて、最大手の複数は毎年開催していた大学院生最終学年向けのインターンをとりやめて、ほぼ採用の扉を閉ざした。

従前はインターンで事務所を知って、卒業後に戸別訪問という名の採用面接のフェーズを踏むが、今年はそのインターンの機会は大学院1年目にしか用意されなかったことになる。

業界全体が、制度変更への対応を探っていて、昨年の段階では今年の夏のインターン関連のイベントがどうなるか全くはっきりしていなかった。

来年インターンしないなら、先に言っておいてという話だ。

 

 

試験の3ヶ月前なのに、就活をたくさんしなくてはいけないのは疲れる。

昨日は大変な一日で、朝7時に家を出て、大学でぶちぬき3時間の授業をうける。

授業が終わったら大学を飛び出して、お昼に大手町の事務所に行ってパートナーの先生と会食。

ほんとうにこの男を仲間にしていいのかを、いろんな先生がかわりばんこに確認するのだ。

ランチという名のカジュアル面接をくぐり抜けたら、また大学に戻り、発展科目の授業を受けにいく。

 

就活サイトを見たら、前から目をつけていた外資系の事務所がインターンの募集をかけていた。

授業を脳の半分で受けながら、レジュメを怒涛の勢いで書く。

その事務所は開き直って、「採用選考は先着順に順次行い、サマージョブ・プログラムの採用者には、メールでお知らせします。」とはっきりとサイトに書いている。

 

この忙しい時期に早いもの勝ち(正確には選考の順番が決まるだけだが、常に選考のテーブルにおいてもらえるので、やはり有利なのだ)をやらせるのも、いじわるだ。

ワードで下書きを書いた。

他の事務所も聞いてくるような、もともと準備している解答事項はコピーペーストで埋めながら、この事務所だけが聞いてきた質問への解答を推敲する。

 

就活情報サイトに募集が出てから、メールで情報が会員に登録されるまでの間に応募すれば、多分だいぶ前に入り込める。

しかし、18:45に豊洲でまた別の事務所の説明会だ。

説明会の開始までにアプライをしたい。

授業を早退してまた大学を飛び出して地下鉄に乗った。

オンラインで下書きのワードの編集をできるようにしてるから、簡単に答えられそうな質問事項は電車の中で答えをスマホで打ち出した。

 

駅についたころにはすべての質問への解答が準備できた。

駅中でベンチを探したけれど、ベンチがない。

けっこう広い駅なのに困ったものだ。

 

地上に出て道路沿いのベンチに座り、テザリングしたパソコンで事務所のサイトに入った。

ワードに打ち出した文章をコピーアンドペーストして、提出。

まだ、就活情報サイトのメールの配信はない。

安心した。

 

レジュメの下書きの文字数は、4000文字ぐらいになっていた。

下準備してる文章たちは、多くの事務所を振り向かせた、渾身で等身大の自分の思いの塊だ。

またこの想いが届けばいいな。

 

夕暮れの中で、相棒のMacbookを閉じた。

背伸びして、深呼吸をした。

鏡を見ながらネクタイを確認して、事務所に向かった。

 

 

不運の中の幸運

せわしない一日だったけれど、大変でもあればいいことも多かった。

昨日、実は新品の革靴をおろした。

二足で4万円ぐらいの靴。

少し高かったが、夏はいろいろ忙しくなりそうだったので、買い替えた。

きれいな靴を見ると気合が入った。

 

しかし、革靴というものは堅いのだ。

高い靴ほど堅い。

いままで履きなれた靴を履くノリで履いて歩いてたら、かかとが痛くて仕方がない。

これでは後少しで血が出てしまう。

8:30くらいに大学について、保健室によった。

 

すると、可愛いらしい先生が出てきた。

可愛い保健室の先生。今まで人生で存在しなかった概念だ。

分厚いガーゼと絆創膏を貼ってもらって、満足だった。

 

朝は民事系科目の演習の授業で、授業中に試験チックなものをした。

かねがね満足の行く結果だった。

弱点もはっきりしながら、できるところはしっかりできた。

 

会食では、先生に褒められた。

自分の内面をよく思ってくれているのが伝わってきた。

他人が幸せなのが僕の幸せなんです、と素直な思いを言ったら先生方が深く頷いてくれた。

この事務所とは、本当に相性がいいんだろうなと思っている。

人間的な成熟と、知性と、自由と、自律を重んじている場所だ。

自分が人生で大切な思い出を紡いできた場所に似ていた。

給料もちゃんと業界の最高水準帯だ。

 

授業をこなし、レジュメもちゃんとしっかりしたものを出せた。

 

最後に行った事務所では、自分と似たキャリアメイクで悩んだ先生に出会うことができた。

本当にありがたかった。

2割くらい、進路として官僚を考えている自分がいる。

去年の夏エクスターンでお邪魔した省が僕を大切にしてくれている。

いろんなスター官僚に会わせてくれた。

もう夏から4,5回は面談をしていて、かなり強く囲われているように思う。

 

たまにいくイベントでは、熱い思いに泣かされることもあった。

 

その事務所で会った先生は、ローを出た後司法試験に受かったが、結局その省に行かれ、その後弁護士になられた。

そういう先生はいそうだが、ほとんどいない。

説明会後、悩みを話すと、深くわかってくれた。

先生が思い悩まれていたことのお話はどれもわかるものばかりで、出会いに感謝した。

 

ずっと誠実に一生懸命にやっていきたい。

自分のことを大切にして、人生に真剣に向き合うことのできる時間を紡いでいきたい。

そういう人生がなにより幸せだと思うから。