第66問 寒空が近づいて

どれだけ耳の中を好きな音楽でかき回そうが、どうしても蓋の隙間から入り込んでくるようである。

別に意識的に考えないようにしていても、寒さは無意識に刺さるようにやってくる。

冷たくなった指をこすると、長くなった爪が瞳に反射する。

ペットボトルの蓋をきつく締める。

溢れかえってしまうなにかがボトルのなかにあるのを感じる。あたたかいコーヒーを闇雲に飲んで、寒空を行き先も決めずに歩く。

どうしようもない終わりを迎えるのはもう嫌で、どうにか温かいものをカップに注ぎたい。

目尻には涙ではなく、笑みの後を残し。

つま先には伸びた爪でじゃなくて、歩き疲れた豆をのこして。

寒空には温かい気持ちで敵わなくちゃいけない。

日に日になんとなくじゃなくなっていくのを感じながら、手のひらが固くなっていくのを感じながら。

胸が脈打つ。

全てはあるがままで。

第65問 感じて

当たり前で、言ったら興ざめなことはある。

でも言いたくなったしまう。そんなことはここに書いてしまう。

自分の周りの人には少しもう話したことがある気がしているんだけど、みんなで話しているときに話すことって全員に向けて話すことはもちろんあるんだけど、実は誰か一人へのメッセージだったりすることってある。

誰も気づかないけど、その二人だけは気づいている。

手触りを求めているから手触りを感じるのだ。

人間は特別な感情を求める生き物だ。

金で、時間で紡ぎあげることのできるものをたった一つの言葉と振る舞いで作り上げていきたい。

自分の深い世界へ引きずり込みたい。

第64問 じゃないじゃない

日本に来てから刺激不足がひどい。
今の自分にはこの物足りない気持ちを文章にぶつけることしかできない。

 

自分の今までの生き方は「じゃない」だった。

自分の目の中に入ったいやで嫌いなものにならないように、そうならないように必死でまるで逃げるかのように動き回っていた。

人の嫌なとこセンサーみたいなのがビンビンに反応して、私の行動規範と付き合う人間を築き上げていった。

それはそれで生のように美しい代物が出来上がったような気はしているけど。もうそろそろその脱皮が必要で、人に問いかけられた時になぜその行動をするのか、なぜその選択をしたのかの肯定的な動機付けが必要なのだ。

否定的なものは指向性出て来づらい。成果に言うと、指向性は色濃いんだけどどうしようもないから人に言いづらいのだ。そして言ったところで、理解はなかなか得られなくて。そういう時って自分の話してる目ってだいたい死んでいて、そんな目で人の心は揺らすことはできない。

何が欲しいのか、何になりたいのか、どう生きたいのか。

じゃないじゃなくて、である。

したくない、じゃなくてしたい。

時間はめっちゃめちゃ限られていて、なんとなく自分のことをわかってきたらもっと深く深く掘ってあげて、先を伸ばしていってやることができたらいいな。

 

自分の自分にとって自信持てるところ。胸張って自信持って生きていこう。

自分に自信があったら、どこぞの誰かが自分のことをジャッジしても何も気にならなくなっちゃう。シビアな空間で生きていく図太さと伸びやかさはそこにあるって確信している。

 

なぜなのか、なんなのか、ひたすらひたすら、爪の先が痛くなるぐらいまで考えてのめり込んで。

第63問 質実剛健に

インドから帰ってきて、自分が強く感じているのは、脳みそをフルに使うことができていないということだ。

脳みその一部しか使えていないからずっともやもやしてる。

もっと脳みそを使いたい。勉強をしたい。自分の中にものを積み上げていきたい。

自分みたいな頭の悪い人間は努力が必要で、こんな楽な状態でい続けてはいけない。

自分を追い込んで、自分の悪いところといいところをきちんと直視して。

思いをノートに書きこ残して。

学び続けて。

人生一生勉強。

成長を止めてたまるか。

 

第62問 悲しみを食べて

悲しみを食らう生き物だ
ああ お前のつらそうな顔を思い出す

ずっとお前はそこにいたのか

俺はとっくにそのトンネルを抜けたとおもう
ああいう脂汗はもうかかなくなったんだよ
ああいうふうに心は震えなくなったんだよ
お前はまだその中にいたのか

悲しみを食うよ
あれ以来悲しみを食うよ

誰にもぶつけられない痛みを、つらみを俺らはぶつけ合ったんだ
お互いの肉を噛みちぎり、汚い時間をすごしたんだ

あれ以来俺は悲しみを食ってばかりだ
その分愛の皿はすこしずつ貯まるんだ
そうして今を生きてる

お前は手をはねのけたんだろう
俺は手を求めたんだ

それはわからないよ
俺らのことは誰もわかりやしない
でも手の先には、心

生きてれば何でも良かった

酒でもタバコでもクスリでも占いでも宗教でも
生きてればそれでいんだよ

お前のせいで俺は何も誰に返せてないことに気づくんだ
金も思いも、友情も愛も

だけどな、お前のことは綺麗さっぱり忘れてやるよ
幸せなんだなって思ってやるし
自分じゃなくてよかったって

悲しみを食らうんだ
別に旨くもない

でも悲しみなんて食い物だ

第61問 螺旋の階段

私は夢みていた。

どうやらそこはすごく白い階段で、とても多くの人がぞろぞろと登っていた。本当は最初エレベーターで上まで行こうと思っていたのに、なぜかどうしてもエレベーターじゃ行けなくて、仕方なく階段を使うことにしたのだった。

階段は普通なようなものじゃなくて、光が上から差し込むような螺旋階段だった。人が登っていることが登っている間にわかるような、そんな感じの。

みんなみんな喋りながら歩いていた。とても小さい子が多かったように思う。賑やかさは子供達の賑やかさだったのかもしれぬ。でも老人も沢山いて、老人同士も楽しそうに話して、見た目だけでは本当に心の紐を解いたような感じだった。

その中で僕は1人歩いていて、でもそれになんの悲しさも寂しさも感じなくて、むしろそういうところに包まれてる安心を得ていた。

1人の女性を見つけた。いつものように美しく長い髪で、白い花柄のワンピースを着ていた。その人も1人だった。

私たちは多分お互いのことを視認していて、もしくは見ずにでもなんとなくお互いがそこにいることを感じていた。でもなんとなく声をかけなくて、どこか他人行儀をしていた。でも何か話したかった。

階段を登る前にはなかった手荷物がなぜか階段を登る中で増えていった。白い綿みたいなものが入った袋と、色とりどりの紙を拾った。ゴミを拾うような気持ちで、手にとり、袋の中にまとめた。

階段を上がりきると少し広めの広場で、そこも白かった。遠くにはあの女の人がいて、今度は私しか気づいてないような感じだった。いつの間にか自分の隣にはおばあちゃんがいて、なにかしゃべっていた。でも私はその女の人が気になって、おばあちゃんの話はうわの空でいた。右隣には母親がいたような気がする。おばあちゃんと母親は僕を挟んで座っていたはずだったけれど、私の背の後ろで2人の影はなぜか重なっていて、すごくもやもやした気持ちになったけれど、まあいいかと思って気にしなかった。

 

目を覚まして、夢はこんなものかとどこか安心したようで、でもすこしもの寂しい気持ちになった。

朝は寒かった。

 

第60問 雪 


雪の夜の色は黄色い。
月の光がすっかり反射して、一色の世界を染めてしまう。

地面が白で覆われる。
全部が上塗りされて、色と線でごまかされた世界はすっかり身ぐるみ剥がされる。
こんなにこの道は広かったんだなあ、と。

雪の降る速さは遅い。
照明に照らされる雪をみると、雨より少し遅めで降っている。
足が積もる雪に取られないように、一歩一歩あるく。
いつもより時間がゆっくりと流れる。

車も人も深い雪の前には、みんな隠れてしまう。
話し声も、走る音もなくなって、雪を踏む音だけが聞こえる。
部屋に閉じ込められたような、そんな気がする。

家に早く帰りたい気持ち。まだ帰りたくない気持ち。
厚い雪を避ける気持ち。厚い雪を踏みたい気持ち。
まっすぐ帰りたい。寄り道したい。

そんな夜。