第58問 血

人間は何でできているのかと考えてみると、特に思いつくのは、血と骨と肉だと思う。

怪我をするとき、とりわけ私たちはこのことをよく感じる。普段肌に隠された血や肉や骨が痛み、自分の眼の前に現れるのだ。
先日友達と話した時、自傷行動について語ることがあった。リストカットをするというのはこの肌を己からこそぎ落とす簡単な方法なんだろう。
タバコを吸うときに感じることもこれと似た感覚になる気がする。自分の肺を自分で穢してやっていることに感じる快感である。自分の手で自分の体を痛めつけることに艶めかしい美しさと幸せを感じるのである。


ここ数日自分を苦しめるのは、自分の血のことだ。
自分の血は何でできているのか考えてみると、これはどうしてやっぱり自分の親の血を混ぜて作ったような気になるのである。科学的に考えるとやはりどこかおかしいことを言っているのはわかっているのは自覚しているけれど、どうにもこの考えがまっとうな気がしてならないのである。
私は自分の親がお世辞にも好きではない。
このことが自分の血への異様な悲しさを生み出すのである。
粘り気のある赤い液体が自分の中でドロドロと溶け合っているような気がする。
許せない。逃げられない。

自分の腕や足や顔が親のどこかに似ていると思うと、どうしてもやるせない気持ちになる。自分の体から親と似たにおいがするといやに気持ちになる。

たぶんこれは自分が一生背負っていくことになりうると思うのである。



無常。己の体に結び付く影のようなものである。