第135問 痛快・爽快

1 痛快

今日は、女の子とデートに行く予定だった。

その子はなにかと僕のことを気にしている女の子で、大なり小なり興味を持ってくれているんだろうなと勝手に感じていた。

一度デートに誘ってみようかなと思って、3月中は忙しいよね、なんて聞いてみたら、そのときは忙しいなとお茶を濁された。

でも、そのあと僕の帰り際にこっちの席にやってきたりして、積極的に話しかけてくれて、なるほど誘ってほしいんだなと思った。

あまりよくないとは思うけど、二人で話す機会はなかなかないから、SNSでデートに誘った。

そうしたら、今日なら空いているよというから、こっちも予定を開けてウキウキワクワクだった。

 

会う時間の3,4時間ぐらい前だろうか、今日は残業が出来てしまったというのだ。

こんな経験は久しぶりだった。

大学の1,2年生以来かもしれない、当日のドタキャン。

一部の女友達はドタキャンをしてくる人もいるが、もはやそういう子たちはそもそも信頼してないというか、言い方を選ばなければしょうがない病気だと感じているから、もう悲しくなることはない。

けど、かなり誠実な子だと思っていた彼女にそれをやられると、こたえる。

 

嘘をつかずにいえば、かなり苛ついてしまった。

その彼女のある意味での不誠実さに怒るのももちろんあった。

もう最近連絡をないがしろにしたり、関係を大切にしない人はこちらから距離を積極的に取るようになったから、変な人と会う機会自体減っていた、というか、ほぼなくなっていた。そういう中で食らうドタキャンは、かなりいらつくのだ。

でも、もっとあったのは、この期に及んで、このレベルのやりとりをすることになった自分の情けなさにだった。

正直、今の自分には強い自信がある。

今の自分が今までの自分の中で一番かっこいいと思っている。

妄想も多分にあるかもしれないが、それでも、今の自分は男として圧倒的に魅力的だなと思うことが増えていた。

 

しかし、このざまだ。

俺はまだまだなんだな、と思った。

まだドタキャンを食らいうるような男なのだと思った。

そしてそういう女とデートに行こうとした頭の悪さ、見る目の無さ、だらしなさを感じた。

 

今日は別の楽しいことをしなければと思って、バケットリストを広げた。

 

2 爽快

前々からしたかったこと、それは、ミュージックバーめぐりだ。

行ったことのない自分からすれば、一杯飲んで3000円くらい取られるんじゃないかとビクビクしていた、ミュージックバー。

今日の軍資金はもともとは2,3万円だから、死ぬほど楽しめる。

そう思って、渋谷のミュージックバーで自分のセンスに合いそうな店をバッと調べた。

どうやらいい店が6軒,7軒ある。

一軒目は居酒屋で日本酒を飲みたかったから、それを除いて、行けても3軒か4軒。

難しい選択だった。

選んだのは、ブラジルの音楽酒場、オーセンティックなジャズバー、ブラックミュージックが流れていそうなおしゃれなバーの3つだった。

つまらなかったら、もう一軒高そうだが絶対満足できそうな店に最後に行こうと思った。

 

結果、3店とも最高だった。

 

一店目は、一杯飲んで910円。チャージ無し。

ブラジルのお酒カシャッサを割ったカクテルのカイピリーニャはラム酒のようで絶品で、甘くて飲みやすかった。店主が気さくで話しやすかった。

常連のうちひとりは、手術か何かで口と鼻が変形している男で、すこし話しづらさを最初は感じたが、楽しげに話しかけてくれて楽しかった。

もうひとりの女性は、サンバが流れる店内で、ずっとスマホをいじっている不機嫌そうな女で、昔恋愛関係にあった女に顔が似ていた。

性格も少し似ていて、プライドが高く、なんだかこっちをナンパ目的かなにかと警戒しているところもあって、話しづらくてしょうがなかった。

最近見たアンチフェミニストYoutubeの動画で、若い女はあまりにこの社会(その動画内でWestern Societyとしていたが)で増長しすぎて、自分の価値を勘違いするようになった、という話を思い出し、その女性がひどく惨めに思えて落ち着いた。

自分はそういう勘違いした女を見ると、すべての選択権が自分にあると勘違いをしている昭和の男性が中身に入っていると思ってしまって、めっきり萎えてしまう。

あまりに「私は正しいし、魅力的なのだ」という話を、女から聞かされすぎたからかもしれない。そのたびにそうだよね、そうだね、と相づちを打った自分は、本当の自分ではないだろう。

もしかしたら自分はアンチフェミニストなのかもしれないな、と思いながら、数十年後の人類社会が女性だとか黒人だとか属性をもって人間の弱者性を語った現代を反省する時代がやってくるだろうと思うと、自分はただ半歩前に歩いているだけなのだと、思う部分もある。

勘違いをしてるかもしれないよね、と言うのはミソジニーなどではなく、ただのリアリズムだと自分も思うのだ。

いい店だから、今日はさっさと席を離れて、また来ようと思った。

その昭和の男性が気難しそうに酒を飲んでいるのが、ただ若い自分にはしんどかっただけだ。

 

2店目は、あまりに本格派のミュージックバー。

デートで来るにも、大人とこなくてはいけないような場所だった。

渋谷にありながら年齢層も高めで、知る人は知るという感じだ。

感性の合う子とここにくると、楽しく飲めるだろうなと思う店だった。

コーヒーカクテルがイチオシらしく、SNSに店の様子を上げたら、コーヒーカクテルを飲んでと言われて、すぐに「のんでるよ!」とすかさず返した。

一杯だけ飲んで、チャージ含めて1600円。

これはいい店だと、味をしめた。

 

3店目。これが今日の大当たりだった。

DJの流す音楽はかなり僕の好みで、バーテンダーもかなりのR&B好きだった。

好きな音楽の話をしていたら、いつのまにか2時間近く経っていた。

歌手の名前を出せば、あれがどうでこうで、と楽しく話せた。

デートに行く予定だった女の子は、まるでこういう音楽について知らないだろうから、デートをしていたらこの店にはこれなかったのかと思うと、大儲けしたと感じる。

出てくるアーティスト、流れる音楽は、自分にとっては非常に馴染み深く、居心地がとても良かった。

ひっそり一人で通い詰めたくなるようなお店だ。

本当に大切な人ができたら、一緒に行くようなお店かもしれない。

 

そうだな、海でいえば、僕にとっての葉山の海に近い。

 

まさかの一人遊びの日になったが、3月で一番楽しい日になってしまったかもしれない。

一番と言ってしまったけれど、会ってくれたすべての友人に感謝してる。

自分はいつも結局正しい道に導かれてしまうのだと、思うのだった。

 

まあでも、これも、勘違いかもしれないね。