第134問 東向きの窓

今日、僕は友達の家のベットの上で目が覚めた。

朝からお台場でバイトをしなくちゃいけなくて、昨日みんなで飲んだ後、友達が新しく越してきた八丁堀の家に泊まったのだ。

お台場まで20分。

奇跡のような近さだ。

 

彼は昨夜先に風呂に入り、ベッドの片一方に先に入って寝た。

床で寝なくていいよという彼の優しさに甘えつつ、起きている間にもう片方のベッドに入るのは恥ずかしくて、彼が寝静まるのを待って端っこで横になった。

横になったというのは、寝るという意味のみならず、ベッドを占領しないように、横向きで寝たという意味でもある。

 

ベッドのシーツを引く時、彼はシーツを洗ったんだという話をした。

聞いた時はよく意味のわからないことのように思ったが、女と寝た後に綺麗にしましたよという意味だった。

なるほどと思った。

僕はまだ実家で、薄い壁の部屋にいるし、そもそも彼女という存在を親に紹介したこともない。

だから自分の布団が性行為でよごれたことがない。

 

いつも人の家か、ホテルでするから、シーツを洗ったのだということが会話に出ることがなかった。

シーツが血だらけになりながらしたことはあるけれど、それも僕の家ではなかったし、僕の体液ではなかったから、自分の寝具が汚れたという気持ちになったことはなかった。

男と女というのは大変だなと冷静に思った。

 

眠りは浅かった。

友達に借りたパジャマからは自分と違う香りがして、シャンプーをされた犬のような気持ちになった。

 

切ない夢を見る。

僕を好きな女が僕の目を見つめず、気持ちのすれ違う夢だった。

ショートヘアの彼女が僕を意識していること、好きでいてくれていることを、言葉にできない感覚でひしひしと感じ、確信しながら、その子は僕に一瞥もくれずに、でも同じ空間にいる夢。

瞳の傍にお互いの存在を映しながら、手を触れない。

俺の悲しさが凝り固まったような夢だった。

もはや全て勘違いだったと思いたくなるような、痛ましいすれ違いだった。

 

午前中パソコンのキーボードを叩きながら、俺はこの夢を人生でこれからも何度も見るのだろうとなんとなく思った。

 

彼の寝室は東向きの窓がついていた。

昔、女の人の家に泊まった時、東の窓から光が刺したのをなぜか思い出した。

僕の腕に頭を乗せていたと思う。

耳を膿んでいて、早く治りますように、と優しく撫でていたことを思い出した。

 

3月も終わりに差し掛かる。

今年の3月はあまりに暖かい。