第130問 花の三物語

 花にまつわる物語の三部作。

 

それは冬頃だっただろうか、僕はある人に花をあげた。

遅れた誕生日プレゼント。

「センスがいいね」と褒められた。

 

違う本を一緒に読んだ。

本を読んでいるのに、そこにはいつも本を読むときに感じる静かな楽しさだけじゃなくて、心が軽く跳ねるような感情があった。

 

帰り道、手をつないだ。

行きと同じように電車で隣に座って帰った。

行きでその人は、ハンドクリームを塗っていたのを覚えている。

指輪をつけながら、ハンドクリームを塗っていた。

 

帰り、僕はきれいな瞳を見つめていた。

普段使わない四谷の改札で静かに抱き合った。

 

だから、四谷の改札を通ると、抱きしめた日を思い出す。

 

その人に会いたくなることがある。もう結構経つのに。

昔は、会いたくなると悲しくなった。

最近はそうでもなくなった。

だから、ただ、会いたいな、と思う。

 

突然お別れしてからのほうが、僕らは似ている人間になっているように思う。

僕が似たのだろうか、彼女が似たのだろうか。

 

 

その人は、僕の彼女だった。

一緒に河口湖にいった。

彼女はいつも僕を車に乗せてくれて、僕を運んでくれた。

 

帰り、僕の家の最寄り駅に車を止めて、

彼女は研修のために群馬にいった。

 

次の日の夜に車を取りに来るという。

だから、疲れていた彼女を喜ばせようと、花束を買って、車に置いておこうと思った。

 

夕方に、花を買いに行った。

高めの花束を買った。

その次の日からの、別の研修も頑張れるように、と。

 

駐車場に行ったら、もう車はなかった。

 

すごく寂しくなって、花を家に持ち帰った。

親が「きれいな花を買ったのね、珍しい。」といった。

 

花束はより一層、僕にとって寂しさを感じさせるものになった。

 

彼女とはすれ違って、恋人はすれ違うのだということを学んだ。

お別れするときに、「私はあなたが大好きだったのよ」と言われた。

こうやって思いを隠さずに伝えてくれる人のそばにいようと、別れたけど思った。

 

 

ゼミの新年会に行った。

宴もたけなわの頃、みんなから小さな花束をもらった。

「遅くなってしまったけれど、大学院合格おめでとう」

 

嬉しかった。

誰に贈っても、返ってこないはずの花束が、やっと自分のもとに返ってきた。

たった3輪でも、僕にとってはかけがえない花束だった。

 

デートに何回か一緒にいった子が、花を用意してくれていたみたいだった。

彼女にやさしくできてよかった、と心から思った。

彼女がずっと僕のことを気にかけてくれているのはSNSでわかる。

 

相変わらず、きれいな心をしたその人に、すごく安心した。

4月から離島に行ってしまうらしい。

その前に、また二人でどこかに行きたいと、その日の眠り際に思う自分がいた。

 

優しい人達は、みな東京を離れることをまた知るのだった。