第143問 瞳の配分

一人でお店でご飯を食べていたら、四人組の男女がやってきて、楽しく喋っている。

うち一人、可愛い女の子がいた。

可愛いというのはいわゆる可愛いというのではなく、僕にとって可愛いという感じで、目がきれいで人からすれば怖い目をしていると言われそうな、そんな感じの可愛さだ。

その子は楽しそうに話すけれど、一人の優しそうでどこか知的な男のことばかり見つめているようだった。

他の人に寂しい思いをさせても、どうしても見つめてしまうという感じだった。

 

彼女たちを傍目で見ながら、自分の友達のことを思い出した。

その人はみんなで集まっても、ずっと僕のことばかりを見つめている人だ。

見つめられているときは、僕は全然気づかなかったけれど、一緒にいる友だちが言うのだ。

「彼女はいつも〇〇のことしか見て話さないから」

 

僕と彼女は全くといっていいほど違うタイプで、食の趣味や物の考え方がまるで違う。

僕は周りの人が幸せでいてくれることが自分にとっての幸せだと感じているが、その人はまるで違く、開き直って自分が楽しいことが一番幸せというタイプの人間だ。

だから、夜が更けて話し込むとき、いつも僕らの意見は対立し、たいてい「それぞれ考え方が違うね」と言って朝を迎えるのだ。

 

でも、そんな彼女が日に日に少しずつだけれど、他人に優しくなっていくさま、言葉が優しさを帯びていくさまを見ると、友達としてとても安心するのだ。

勝手な老婆心だけれど、色々なものと触れ合う機会が多い彼女には、間違った道に行ってほしくないと強く思うからだ。

安っぽい女になってほしくないし、彼女の風変わりさをちゃんとわかってくれる人たちに囲まれていてほしいと思う。

 

昔、彼女が何人か前の彼氏と付き合っているとき、彼氏とのツーショットを無理やり見せられた。大久保でみんなで集まって飲もうというときに、二人で向かう山手線の車内だった。

隣同士に座りながら、その彼の写真を僕に見せる彼女は、俺の反応を伺っていたと思う。

今思うと、すごく彼女らくしない行動だったように思う。

 

話はそれるけど、僕はこういう経験がとても多い。

他の誰かと付き合っていること、そしてその二人が何をしているかをつぶさに開陳されること。

そんな人達が別れ際になると、相手にとても冷たくなり、むしろ他の人に目をハートにしているという状況に何度出くわしたのかもわからない。

ひいては、きっと僕のことが気になっているだろうなというときに、今まだ付き合っている人の悪口を僕に聞かせたり。

そんな人、一緒になれないよ、と思う。

きっと優しい男として僕を好きになっているだろうけど、優しい人はそんなふうに付き合っている人の悪口を言う人を好きにならないよ、と思う。

 

彼女はそういう悪口を言うタイプでは決してないけれど。

 

僕と彼女の関係は、僕からしてもよくわからない。

大胆でクールな結果になっている彼女だが、内心は異常なほど繊細で、自分を守る殻がとても厚い。傷つくことをひどく嫌うからこそ、人に冷たくなるのだ。

奥底にある優しさに誰も気づけない、そういう寂しさがあるように思う。

そういう繊細な彼女には、その繊細さが人を寂しくさせたり、傷つける方向に行かないようにしてあげたいと、友達としては思う。

色々考えがちだからこそ、その考えがあたたかくぬくもりがあるように育っていって欲しいと思うのだ。

しょうがないと開きなおるのはあまりに簡単だし、あまりにそこらへん過ぎてつまらないじゃない。

 

昔、文化祭で一緒に後輩の手伝いをしているとき、彼女が当時の彼氏を連れてきたときのことを覚えている。

「こんにちは」と僕はその人に軽く挨拶をして、中に引っ込もうとしたけれど、彼女は僕のコートの裾をみんなに見えないように引っ張った。

君の側にいるのは僕ではない、と思う僕だった。

 

深く残る、すれ違いの思い出の一つだ。

 

以来、僕のSNSはその彼氏にしつこくストーカーされていたと思う。

その後の彼氏には、もっと酷くストーカーされた。

僕は女にも男にもモテるのだろう。

僕を「親しい友だち」にぶちこんでくれて、仲睦まじい様子を見せつける相手にされてしまった。親しい...とは?、という感じだ。

良い恋愛ではないなあと、友達としてすごく悲しくなった。

 

しがらみに絡みつかれる彼女が、自由でいられる場所でいてあげたいと、思うのだ。

だから瞳の配分を彼女が間違っても、それぐらいはまあ許してあげよう。