第124問 盗み

院からの帰り道、ふと中学であった盗みを思い出した。

盗まれたことを思い出したというわけではなく、隣のクラスであった盗みの話だ。

色んな人のゲーム機がたくさん盗まれてしまったらしい。でもゲーム機は本来学校に持ってこれないはずだから、学校に相談できない。

盗まれた当人は親にも相談しづらいし、まごついている間にどんどん色んな人のゲーム機は盗まれていった。

犯人は中学生なりの後ろめたい感情を利用して、多くのゲーム機を盗んだのだった。

最初は誰が犯人か全然検討もつかなかったらしく、そのクラス全体で嫌な雰囲気が流れたようだった。

でも、だんだんと事態の解明が進んで、最終的には犯人が誰か判明したのだった。

 

その犯人の子は、しばらく謹慎となっていたように記憶している。

誰が犯人だったのか、学年の300人ほとんど全員に知れ渡ってしまって、それ以来友達もできないようだった。

裏では、その子と関わると物を盗まれるぞ、なんて揶揄する人も多かった。

 

自分はそんな彼と高校1年か2年のときに同じクラスになった。

彼が盗みをしていたことはなんとなく知っていたけれど、私や私の友人は特になんの偏見もなく彼と仲良くしていたような気がする。

具体的になにをしていたかは全く思い出せないけれど、自分のああいう感覚が、もしかしたら昔からの自分らしさの一つだったと思う。

 

幼稚園の卒園式で、キリストが使徒に裏切られて、十字架にかけられる話を演劇でやった。そのとき、誰一人としてイスカリオテのユダをやりたがらなかったらしい。

そんなとき、私はユダをやることを名乗り出たらしい。

 

そういう自分の部分って、昔から変わっていないように思う。

 

寒い帰り道、そんなことを思い出していた。